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※この記事は前後編の構成となっています。
前編にてこれまで述べてきた通り、職場復帰の際の異動希望への対応は、単に健康面を考慮した安全配慮の問題だけではありません。
会社全体の人事施策に影響を与える問題のため、産業医の判断で決定されるものではなく、産業医の意見も踏まえ、会社として判断・決定する必要があります。
その中で、産業医が医学的な判断として行うべきは、「復帰時の異動が望ましいが、異動しなくても就労は可能」なのか、「復帰に際して異動は必須であり、元の職場で就業することは不可能」なのか、すなわち異動が復帰の推奨条件なのか必須条件なのかの見極めです。
そもそも、精神的なストレスがその発症に大きく影響するメンタル不調において、不適応感を覚えている職場よりも、望んでいる職場で働けた方が復帰への心理的ハードルが下がることは、当然のことです。
業務内容や人間関係で躓いてしまった職場でもう一度頑張るよりは、本人がやりたかった仕事を、苦手な人がいない環境で遂行した方が復帰しやすいと主治医が助言することも当たり前です。
ですから、復帰する労働者が苦手と感じている環境を避けた方が良いという、主治医の意見や労働者の希望は当然のものとして、産業医としては、本人が望まない元の職場の復帰でも可能なのか否か、一歩踏み込んだ判断が重要となります。
復帰時の異動が、推奨条件なのかそれとも必須条件なのかという見極めは、単に産業医の主観で行うべきではないと考えます。後々、なぜそのように判断をしたのかの説明がつくような対応が求められることを前提とした取り組みが重要です。
産業医としてはまず、異動を希望している労働者に直接、「可能であれば異動したい」という趣旨なのか、「異動なくしては復帰はできない」という意味なのか、異動の要否に関する認識を確認すると良いでしょう。
この際、産業医に人事権がある訳ではなく、最終的に異動の可否は会社の判断であることや、労働契約は、あくまで会社が決めた職場で指示された業務をする性質のものであることを伝えておくことが良いでしょう。
もし、異動が復帰の必須条件ということであれば、会社の判断で異動ができない場合、産業医としても復帰可の意見は出せず、結果として、療養の延長となる可能性が高い(=労働者から見れば、給与が得られない状態が継続する可能性が高い)ことも正確に理解しておいて頂く必要があるからです。
また、異動を希望している労働者への質問や、主治医の発行した診断書の内容から、異動が推奨条件なのか、必須条件なのか、はっきりしない場合には、主治医への情報照会を行うことも有効です。情報照会に関しては、診察に職場の人事担当者や上司が同席することを許容する医師もいれば、文書でのやり取りを希望する医師もいますので、事前の確認が必要です。
私が産業医として見てきた企業の中で、好事例と感じた人事対応・社内制度についても触れたいと思います。
メンタル不調者の復職を考える時、「これまで社内で十分な実績があり、今後も大いに期待される人材が、頑張り過ぎてしまってメンタル不調に陥ってしまった」のか、それとも、「まだ採用後に日も浅く社内での信頼や実績に乏しい人材や、どこの部署に配属されても不平や不満が多く、社内で活躍が難しい人材がメンタル不調に陥ってしまったのか」によって、配慮の程度や内容を変えたいということが、企業側の本音なのではないでしょうか?
前者の場合、会社としてはできるだけの配慮をして、もう一度社内で活躍をしてもらいたいと考えることが多いでしょう。
後者であれば、どうしても今後の活躍が期待される社員と比べ、対応に悩んでてしまうという場面も少なくないはずです。
但し、企業内には前述の公平性・平等性の基本原則がありますから、前者にだけ特別な配慮をするということが難しい状況も存在します。
その様な状況で、私の産業医先企業の中でも最近、複数の会社で取り入れた方策が、「まずは元の職場への復帰」の原則としつつ、復職時の社内FA(フリーエージェント)制度の活用を認める取組です。
社内FA制度は、労働者が自ら希望する部署への異動を会社に申請できる制度として、最近は労働者のモチベーション向上や能力開発、キャリア形成につながるメリットを重要視し、人事制度に取り入れる企業が増えています。
このFA制度を復職時に活用することで、「あの部署なら自分が安心して働けて、貢献できそうだ」と考える労働者と、「○○さんなら、これまでの実績からもうちの部署での活躍が期待されるから、休職明け最初の時期は業務量・業務内容に配慮しながら様子を見ていこう」と休職明けのことも理解した上で受け入れてくれる職場とのマッチングがなされれば、復職がスムーズに進むことが期待されます。
これまで社内で実績と信頼を残し、人脈形成ができている従業員は自分が着実に活躍できる職場や安心して働ける上司や先輩がいる職場に異動することが可能となります。
逆に社内で他に異動先が見付からない従業員であれば、元の職場への復帰を目指すか、どうしても環境を変えたい場合には、社外も含めて広くキャリアを検討することへの踏ん切りも付くことになります。
医学的に考えれば、気分が落ち込み、意欲が出ないような抑うつ状態の際に、復職する職場のことをばかり考えながら、療養生活を送ることは適切とは言えませんが、病状が改善し、主治医からも「職場復帰可能」という判断をもらえる状況に至ったのちは、どのような環境で自らが職場に復帰していくのかを考え、そのための活動をしていくことは大きな問題がないと考えられます。
ですから、十分に療養して、職場復帰を検討できるまで病状が回復した際には、このような制度活用も円滑な職場復帰につながると感じています。
今回のお話は、あくまで、「職場の上司との相性が良くない」、「自分の望まない仕事にアサインされた」といった、職場で通常想定される範囲内のストレスでメンタル不調に陥ってしまったケースにおける復帰時の異動希望に対する考え方です。
その一方で、「月間100時間以上の時間外労働が発生していた、上司から何度も罵倒され、人格を否定され続けた」など、通常の職場では発生しないような強いストレスによりメンタル不調に陥ってしまった場合には、復帰時に特別な配慮が必要な場合もあります。
もちろん、メンタル不調の原因となるようなハラスメントがあったのか否かの判断などは、産業医の職務範囲ではありませんので、その調査や判断は会社の対応に委ねることになりますが、会社が明確にハラスメントの認定をし、加害者にも一定の処分が下されるようなケースにおいては、労働者の希望も踏まえた職場異動なども柔軟に検討する必要があります。
厚生労働省では「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を定めており、職場におけるメンタルヘルスケアを推進しています。 この指針では、メンタルヘルス対策には4つのケアがあると定義されています。 本資料では、この4つのケアを軸とし、弊社が推奨する取組事項をまとめ、チェックリストにしています。 「セルフケアに関する取り組みが足りていない」「事業場外資源によるケアを行えていない」等、各領域の取り組み状況の確認にご活用ください。
50人以上の事業場向け
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※有害業務従事の場合は500人以上
単発の面談が必要な事業場向け