2026年8月25日、エムスリーキャリア株式会社はオンラインセミナー「デジタル化で乗り切る健診業務~健康経営へのアプローチ~」を開催しました。
講師は、エムスリー株式会社の産業医・ビジネスプロデューサーの野口裕輔先生です。司会は当社健康経営グループの宮崎利佳子が担当しました。本レポートでは、健診業務の負担が生まれる背景から、デジタル化がもたらすメリット、健康管理システムを選ぶ際のポイントまで、講演の要点をご紹介します。
目次
野口先生は2014年に産業医科大学を卒業しました。製鉄所の専属産業医、同大学産業精神保健学研究室での研究、中小企業の嘱託産業医を経て、2019年に厚生労働省へ入省しています。医系技官として、治療と仕事の両立支援などの施策に携わりました。2024年からはエムスリー株式会社で予防医療事業「ホワイト・ジャックプロジェクト」に参画し、その傍ら中小企業の産業医と厚生労働省参与を務めています。

講演はまず、健康管理担当者が置かれている現状の確認から始まりました。産業保健にかけている業務時間の割合を尋ねた調査では、「10%未満」が35.8%、「10~30%未満」が32.4%で、約7割の担当者は業務時間の3割未満しか産業保健に割けていません。多くの担当者が、ほかの業務と兼務しながら産業保健を担っていることがわかります。
実際に行っている産業保健業務では、ストレスチェック(36.8%)、メンタルヘルス対応(34.1%)に続き、健康診断結果対応が33.4%で上位に入りました。限られた時間のなかで、健診対応が大きな負担になっている実態が浮かび上がります。
野口先生は、健診業務が忙しくなる理由を2つの側面から整理しました。1つ目は人事上の問題です。健康管理を専任していないケースが多く、引継ぎが不十分なまま業務が属人化し、特定の個人に負担が集中しがちです。2つ目は業務上の問題です。健診機関ごとに結果のフォーマットが異なり、紙の結果は検索しにくく、最低5年間の保管も求められます。さらに報告書類の作成や、未受診者への個別の受診勧奨といった手作業が重なり、担当者の時間と労力が奪われているのです。

こうした課題に対して、有効かつ取り組みやすい解決手段として示されたのがデジタル化です。確実なデータ管理によって法令遵守の負担を軽くできるうえ、結果を分析・活用することで健康経営の推進にもつながります。
背景には、産業保健分野でのデジタル化に関する法的緩和があります。労働安全衛生法に基づく活動では、安全委員会・衛生委員会のオンライン開催、長時間労働者や高ストレス者を対象とした医師によるオンライン面接指導、雇入れ時教育や特別教育などのeラーニングでの実施が認められ、要件も明確化されました。
講演では、デジタル技術のメリットを3つの分野に整理しました。1つ目の「省力化」は、健診やストレスチェックのデジタル化、受診勧奨の自動化などにより、健康管理に費やす時間を短縮して生産性向上に寄与するものです。2つ目の「可視化」は、健診データなどを活用した課題分析で組織の状態を数値化し、戦略的な健康投資を可能にします。3つ目の「個別化」は、オンライン診療・健康相談やPHRを活用したアドバイスなど、一人ひとりに合わせた情報提供を通じて、プレゼンティーイズムやアブセンティーイズムの解消につなげるものです。

野口先生は、3分野のなかでも健康経営推進の核になるのは「可視化」「省力化」と解説しました。可視化によって、健康経営の定量的な評価、施策の投資効果(ROI)の算出、勘や経験に頼らないエビデンスに基づく戦略立案が可能になります。また、健康施策を「投資」として示せるため、経営層のコミットメントも高まります。可視化こそが、健康経営を福利厚生から経営戦略へと変化させるというメッセージです。
ただし、時間がなければPDCAは回せません。まずはデジタルで事務作業をスリム化し、「戦略的余力」を生み出すことが優先だといいます。その具体例として、健康管理システム、ストレスチェック、労務管理が挙げられました。
健康管理システムでは、健診計画・判定・受診勧奨、有害業務管理、労基署報告書の作成、電子カルテ機能などに加え、有所見者の層別化・クロス分析やAIによる健康度の分析も可能です。一方で、業務フローが大きく変わることや、導入・リプレイスに費用がかかる点には注意が必要です。
データ分析では、目的を明確にした分析計画を立てること、結果の解釈に産業医などの専門家が関与すること、データ活用について従業員の同意を得ることが留意点として示されました。ストレスチェックのオンライン化では、未回答者へのリマインドや結果の即時返却、集団分析結果の生成ができる反面、プライバシー保護と閲覧範囲の設定が欠かせません。
講演では、対照的な2つの事業場の事例も紹介されました。従業員1,000名超のIT企業では、健診結果がデータで納入され、判定から面談管理、意見書発行までをシステムで完結しています。全社の喫煙率を部署別に比較して喫煙対策につなげたほか、就業制限中・休職中・復職後の従業員を一元管理し、適切なタイミングで介入できています。一方、従業員200名の医療機器製造業では、健診結果が紙で届き、意見書なども個別にPCで作成して印刷・共有しています。有機溶剤の特殊健診について、尿中代謝物や肝機能などに絞ってExcelで集計するなど、ポイントを絞った工夫で課題把握に取り組んでいる様子が紹介されました。
システム選定では、健康管理・産業保健の特性を踏まえているかと、長期的な保守体制が確立しやすいかの2点を見極めることが重要です。前者では、業務歴や就業措置、過重労働情報を一元管理できるか、健診機関が変わってもデータの連続性を保てるか、特殊健診に対応しているか、閲覧権限を細かく設定できるかなどが挙げられました。後者では、データ形式の標準化、法改正への迅速な対応、強固なセキュリティ、開発者の産業保健への理解、導入実績と運営基盤の安定性などがチェック項目として示されました。
健康経営優良法人2027の改訂内容も紹介されました。自社従業員以外への健康経営の普及、長時間労働の「予防と事後対応」への評価項目名の変更、睡眠に関する設問の新設、PHRを活用できる環境整備に関する設問の改訂、健康投資額を確認するアンケートの新設などが主なポイントです。データに基づく取り組みの重要性は、今後さらに高まっていくと考えられます。
健診業務のデジタル化は、単なる業務効率化にとどまりません。省力化で生まれた余力を可視化とPDCAに振り向けることで、健康経営を経営戦略へと進化させる第一歩になります。当社では今後もセミナーを開催してまいりますので、ぜひご参加ください。
本資料では、産業医監修のもと、健康診断の基礎知識から、健康経営との関わり、さらには健康診断の効果的な実施の方策について解説させていただきます。 健康診断に関する基礎知識のキャッチアップ、健康診断の効果的な実施にぜひお役立てください。
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