エムスリーキャリア株式会社は、オンラインセミナー「健康管理のプロ2人が解説!人事労務の負担を軽くする『法令対応×実務』のポイント」を開催しました。講師は、産業医の野口裕輔先生と、別府大学看護学部で教鞭をとる保健師の穴見奈々先生です。司会は当社健康経営グループの宮崎利佳子が担当しました。本レポートでは、産業医と産業保健師それぞれの視点から語られた、人事労務担当者の負担を減らすための体制づくりのポイントをご紹介します。
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野口裕輔先生は2014年に産業医科大学を卒業。製鉄所の専属産業医、同大学産業精神保健学研究室での研究、中小企業の嘱託産業医を経て、2019年に厚生労働省へ入省し、医系技官として治療と仕事の両立支援などの施策に携わりました。2024年からはエムスリー株式会社で予防医療事業「ホワイト・ジャックプロジェクト」に参画し、中小企業の産業医と厚生労働省参与も務める。
穴見奈々先生は、医療機関で看護師を経験したのち、大分県内の製造業で18年間、産業保健の現場に従事。従業員の健康支援からメンタルヘルス対策の体制構築まで、組織全体の健康経営を実践的に担ってた。現在は別府大学で後進の育成にあたる。専門は産業保健、メンタルヘルス、健康経営。
人事労務担当者が疲弊する背景野口先生はまず、人事労務担当者が置かれている状況をデータで示しました。産業保健にかけている業務時間の割合は、「10%未満」が35.8%、「10~30%未満」が32.4%でした。約7割の担当者が、ほかの業務と兼務しながら産業保健を担っています。そのなかで、ストレスチェック(36.8%)、メンタルヘルス対応(34.1%)、健康診断結果対応(33.4%)など幅広い業務を抱えており、専門職の協力なしに進めると負担が増えることがわかります。
担当者の時間をさらに奪う要因として、野口先生は産業医に関する2つの問題を挙げました。
1つ目は「活動時間問題」です。担当者が産業医に頼んでいる業務は、ストレスチェック実施(52.8%)、衛生委員会への出席・コメント(47.8%)、メンタルヘルスケアに関する助言・指導(43.1%)など多岐にわたります。しかし嘱託産業医の活動時間は、月1時間程度に限られることが一般的です。その時間内で法令遵守項目をこなすだけで精一杯になり、先を見据えた取り組みまでは手が回りにくいのが実情です。
2つ目は「不適当な指示」です。休職・復職可否に関する意見や就業判定、長時間労働者への面接指導は産業医の役割です。一方で、休職・復職の最終決定や退職勧奨、勤怠不良への注意指導、ハラスメントの事実認定、人事評価の決定などは産業医の業務範囲外です。ストレスチェックの実務・書類仕事や、法的リスクの責任を押し付けることも適切ではありません。最終決定や事務関連は産業医の仕事ではないと整理しておくことが、時間の浪費を防ぐ第一歩になります。
野口先生は、アイゼンハワーマトリクスを使って産業保健業務を4つの象限に切り分ける考え方を紹介しました。多くの職場では、「緊急で重要」「緊急だが重要ではない」業務に追われ、対症療法的な対応が増えていきます。この状態が続くと、将来的に体制が崩れるおそれもあります。産業保健の安定性と効率化を進めるのは、「緊急ではないが重要」な領域で計画を立てることだと強調しました。
そのうえで最初に取り組むべきなのが、「誰が何の仕事をするのか」の切り分けです。産業医は活動の企画・評価や面接指導、意見提出、主治医連携を担います。産業保健師は情報収集や保健指導、伴走型支援、関係者との橋渡しを担います。人事労務は制度設計やデータ収集、意思決定、人事評価を、管理職は部下の管理や環境調整、支援依頼を担います。そして、これらをシステムが支える構造です。
野口先生は、産業医を経営層から従業員までを縦に貫く「縦糸」、産業保健師を組織の横のつながりを把握する「横糸」にたとえました。この2種類のプロを連携させ、産業保健を編み上げるのが人事労務のプロの役割だと締めくくりました。

穴見先生は、「専門家に全てお任せします。よいようにしておいてください」という依頼の仕方に潜む落とし穴を指摘しました。信頼されること自体はうれしいものの、限度がわからず業務時間を超えて頑張ってしまうことがあります。また、「次もやってくれる」「ほかの人はやってくれた」という期待が積み重なると、スタッフが疲弊して業務が滞るケースが多いといいます。
臨床看護師が医師の指示のもとで動くのに対し、産業保健師は産業医・人事・従業員の架け橋として、指示を待たずに自立的に動けるポジションです。この自主性こそが最大の特徴ですが、任せ方によって成果は大きく変わります。指示が多すぎると自主的に動けなくなり、完全に任せきりにすると業務の幅が個人の裁量に左右され、責任感の強い人ほど燃え尽きてしまいます。最も効果的なのは、役割の違いを明確にしたうえで数値目標やKPIを設け、目標を与えて任せる方法です。
穴見先生は、産業保健師の活躍の幅を広げる3ステップを紹介しました。第一に、産業医不在時の対応や保健師の業務範囲など、産業保健スタッフの役割を整理して理解しておくことです。第二に、「健康診断・二次健診受診勧奨率100%」のように具体的な目標やKPIを与えることです。第三に、会社のルールや人事的な事柄は人事から伝えることです。従業員と仲が良いからといって、休職や退職勧奨を保健師に伝えさせると、役割の垣根が崩れてしまいます。
産業保健師は、次の産業医訪問までに「産業医にしてもらうべきこと」を整理し、判断材料を集めることができます。長時間労働を例に挙げると、ログと勤怠の乖離や勤務間インターバル、細切れ休暇の連続取得といったデータに加え、身だしなみの変化やケアレスミスの連発など、見逃してはいけない心身の変化にも目を配ります。職場巡視や面談を通じて、職場の人間関係、家庭環境、部署の業務量、キーパーソンまで把握していることも強みです。こうした情報を産業医と人事労務に共有することで、判断や施策の精度が高まり、産業保健活動が円滑に進みます。
後半は、宮崎の司会で両先生によるパネルディスカッションを行いました。
テーマは、健診や健康管理業務で先手を取るための整え方、産業医・産業保健師が求める共有情報、そして人事・管理職・産業医・産業保健師の連携による課題解決の事例の3つ。産業医、保健師それぞれの立場から具体的な課題の解決法が語られました。
50人以上の事業場向け
1,000人以上の事業場向け
※有害業務従事の場合は500人以上
単発の面談が必要な事業場向け