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成長フェーズの企業では、事業の成長・拡大に伴い、さまざまな変化が生じます。そのような現場を支える人事・労務担当者や産業医は、産業保健にどのように向き合っているのでしょうか。2006年に創業し、2013年に東京証券取引所マザーズへ上場、昨年2018年には東京証券取引所市場第一部(以下、東証一部)へ市場変更を果たした株式会社じげんの労務担当・岩﨑裕子氏、同社の産業医を務める尾林誉史先生にお話を伺いました。(取材日:2018年11月17日)
【尾林誉史先生プロフィール】
東京大学理学部化学科卒業後、株式会社リクルートに入社。 2006年、産業医を志し退職。 2007年、弘前大学医学部3年次学士編入。 2011~13年、産業医の土台として精神科の技術を身に付けるため、東京都立松沢病院にて初期臨床研修修了。 2013年、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。長崎市にある医療法人厚生会道ノ尾病院に赴任。可能な限り衛生委員会に出席する、メンタル問題の兆しが現れるのを待たずに積極的に面談を実施する、4~5時間かけて企業の内情を掘り下げるなど、自他ともに認める『攻めの産業医スタイル』が持ち味。リクルートグループの嘱託産業医を経て、主に東京に本社のある企業6社の産業医も務めている。 |
【企業プロフィール】
・株式会社じげん(東京都港区) ・従業員数:147名(連結459名、2018年12月時点) ・事業内容:ライフメディアプラットフォーム事業 ・尾林先生の就任時期:2014年9月 ・尾林先生に依頼した決め手: 熱意、前職の知己 |
尾林 じげんの産業医に就任した当時、私がSuper Medical/Mental Officer (SMO)に就いたとプレスリリースを出してくださったことを今でも覚えています。私を会社のパートナーとしてアピールし、陰に隠れてしまいがちな産業医のイメージを向上する発信をしてくださったのはうれしかったですね。
今はさまざまな企業が健康経営に力を入れていて、その取り組みを目にする機会が増えましたが、当時はそのようなことを表立って発表する企業は少なかったように思います。
個人的な話になりますが、私の産業医としてのキャリアはじげんからスタートしています。
現在の面談はフリートークで話を進めて、その後に労務にフィードバックして対応策をすり合わせるスタイルです。以前は、面談者の情報をじっくり伝えてもらうこともあれば、情報なしで面談に臨むこともありました。
トライアル&エラーを繰り返して、今の自分なりのスタイルを築きました。社員との距離感、休職した方がいい・復職できるラインなど、産業医として持つべき基準のようなものは、じげんでの勤務を通じて確立できたと思っています。
尾林 就任当時は社員数が50人前後でしたが、今やグループ全体で300人以上と約6倍に増えました。その間、社員の入れ替わりも、会社の変化も見てきました。その時々で会社として良い状態なのか、そうでないのかを労務、そして、設立当初から在籍している常勤監査役の尾上正二さんとディスカッションしています。
社員が働きやすい環境か、現場の社員と上層部の気持ちが離れていないか、“じげんらしい”状態か――などを意見交換することで、課題や今後取り組むべきことなどが明確になります。尾上さんは日常的に現場のみなさんとランチに行くなど、社員と積極的にコミュニケーションをとってくださっています。
その際に気付いたことやリスクを抱えていそうな社員について教えてくださるので、ある意味でフィルター役を担ってくださっているとも感じています。
岩﨑 そうですね。尾上はもちろんですが、尾林先生も弊社に在籍する社員の傾向をよく理解してくださっています。部署名を伝えると、課題のアタリをつけていただけるほど。しかも、それが的確なんです。その点は、弊社の産業医を長く担当していただけているからだと感じていますね。
社員のほとんどが尾林先生を知っているので、心身に不調がなくとも「先生と話したい」というニーズも多くあります。同僚には話しにくいことは少なからずあると思うので、先生と話せる場をもっとつくれるようにしたいですね。
尾林 訪問は月1回ですが、コミュニケーションツールが整っていて、リモートでも意思疎通しやすいのがじげんの良さですね。
たとえば、じげんには設立当初から社内専用のFacebookページがあり、そこに雑談や社内のイベント情報を社員が積極的に投稿していて、私も見たり投稿したりしています。
また、間接的な方法でも社員の状況を見ています。じげんは勤怠連絡をメールで行う会社なのですが、私もそれを見られるので、その内容や頻度から「この人は最近あまり調子よくなさそうだな」と察することができるわけです。
尾林 社員数が増員見込みとのことで、執務エリアのスペースをゆったり取るように提案させていただきました。気軽に雑談できるスペースが設けてあるのも良いですね。以前はワンフロアだったので目が行き届いていました。
現社屋では4フロアにわかれたので、社員同士の交流が薄くなってしまうのではと懸念がありましたが、現時点では問題ないと感じています。
岩﨑 4階の空きスペースをランチ休憩やミーティング、時に社内イベント会場として開放しているので、そこで社員が交流できている印象があります。個人的には、声のトーンでその人の状態を読み取れるとも考えているので、社員と会うためになるべく別のフロアに行くことを心掛けていますね。
弊社では業務効率化のためにチャットツールを導入しているのですが、便利な反面、やはり文章と対面でのやりとりはニュアンスが違うと実感しています。
岩﨑 会計監査を受ける兼ね合いもあり、一部の部署では業務負荷が強い時期がありました。ただ、社内的にも「東証一部上場を目指すぞ!」という空気が流れていたので、特に不満などは出ませんでしたね。残業する日はきちんと申請をあげる、早く帰れる日は早く帰るなど、いつも通り勤怠関係のフォローをしていました。
尾林 私がじげんの産業医を始めたときから、平尾社長の「東証一部を目指す」というマイルストーンが従業員間に浸透していた印象があります。もともと、社風として上昇志向が定着しているので、そこを目指すことで社員のモチベーションも上がっていたのではないかと思います。だからこそ、一時的な負荷があっても現場から大きな不満があがらなかったのではないでしょうか。
岩﨑 尾林先生にお力添えいただいていることもあり、メンタル不調者が復職して、その後も継続的に就業できていたりと良い状況かと思います。一方で、現場の人手が足りないのも事実。繁忙期に入ると急激に負荷が上がってしまう可能性もあるので、現場管理者を中心にワークライフバランスを整えるように働きかけています。
たとえば、繁忙期ではない時期に残業が発生していないかなどをチェックして、全社的な残業時間を削減するように努めています。
尾林 企業によっては長時間労働者に対して一律面談を実施するところもありますが、じげんに関しては岩﨑さんにお任せしています。社員をよく見ていますし、何より信頼も厚い。タイムレコーダーの時間だけでは測れない部分も含めてアラートを上げてくださるので、私も絶大な信頼を置いています。
私の性分として、意識しているものの面談時間が長くなってしまいがちなんです。そこを「尾林先生、時間ですよ」とビシッと区切ってくださるのも大変助かっています(笑)。
岩﨑 東証一部企業とはいえ、現在も、成長フェーズです。常にスピードを伴って事業拡大しているので、新しい課題が次々と現れると感じていますね。
新卒や中途、外国人の採用など人材の多様化に加え、M&Aの加速による増員が特に目立ちます。社員が増えてくると、社風にフィットしない人、何かしらギャップを感じてメンタル不調に陥る人が出てくることも想定されます。そのギャップを埋めるために、事業部間の連携やコミュニケーション活性化など、労務として働きかけていく必要が出てくると感じています。
尾林 創業期は、今も昔も変わらずカリスマ性のある平尾社長自身や、彼に魅了された社員によって会社のエネルギーが生まれていたように感じます。その頃より事業数も社員数も増加した今、一般的にも上層部と現場間で思いが乖離したり、熱量に差が生まれやすくなったりとさまざまな問題が発生してくる時期だと思います。
そのような企業のステージにおいて、上層部と現場の間に立つ人が必要になってくると思いますし、そういう方がいれば組織として盤石な状態になるのではないでしょうか。
岩﨑 ハラスメント研修などを通じて、会社のリスクになりうるトピックについて管理監督者の意識を高めていくことです。「働きやすさ」をキーワードに、昨年とは異なる取り組みを少しずつ進めていきたいですね。
働きやすさは千差万別ですが、当社は若い社員が多いので、やる気を阻害せず気持ちよく働いてもらい、力を発揮できるような就業環境を整備していきたいと考えています。
尾林 突飛なアイデアはないのですが、「何かあれば産業医に相談できる」という安心感を持ってもらえるように、引き続きみなさんと積極的にコミュニケーションをとっていきたいですね。組織が大きくなってくると、産業保健にかける時間は同じでも、対応できることが限られてくるようになります。
だからこそ現場からアラートがあがってきやすいフローを再構築して、組織の規模感に負けない動きをしていきたいですね。
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