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日頃、社内の産業保健対応をするにあたり、「こんな時どうしたらいいんだろう」「他社はどう対応しているんだろう」と思い悩むことはありませんか。
『産業医と事例で学ぶ!人事労務の『困った』を解決するヒント』では、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 副院長・岸本雄先生に寄稿いただき、産業保健で起こった事例(※)に基づいた対応、そういったケースを未然に防ぐTipsを取り上げていきます。
※事例の細部は変更してご紹介しています。
目次
ここ最近、休職者から診断書と一緒に次のようなメールが届き、正直どう対応すればよいか困ってしまう…というご相談を人事労務担当者の方から伺うようになりました。
お世話になっております。○○です。
本日、主治医より「復職可能」との診断書が発行されましたので共有いたします。
当該診断書は、現在の健康状態が就労に耐えうる水準に回復していることを医学的に示すものであり、復職可否判断における重要な根拠と理解しております。主治医は私の治療経過を継続的に把握している専門家であり、その見解は十分に尊重されるべきと考えます。
一方で、これまでの対応を踏まえると、診断書の内容にかかわらず復職が先送りされる可能性があるのではないかと懸念しております。復職可能な状態にあるにもかかわらず手続が遅延する場合、労務管理上の適切性や安全配慮の観点からも会社の対応は不適切なものと解釈しえます。
また、私の勤務状況については、長時間にわたる滞在や待機が常態化していた点、労働時間の把握や記録の適正性、就業規則の周知方法等を含め、複数の観点から整理が必要と考えております。これらは個別に検討されるべき事項ではありますが、全体として適切な労務管理が行われていたかについては、専門家の見解も踏まえた確認が必要な状況にあると認識しております。以上を踏まえ、下記の点についてご対応をお願いいたします。
【確認・対応依頼事項】
回答期限及び今後の措置 上記確認事項に対する貴社の最終的な見解と具体的な対応について、3営業日以内である〇年〇月〇日〇時までに、書面にてご回答ください。
期限内に誠意ある回答及び履行がなされない場合、「労災隠し」にも繋がりかねない悪質な行為と判断します。本書面を基に、弁護士への正式依頼、労働基準監督署、労働局への正式な申告、並びに、詐欺罪・有印私文書偽造罪等を視野に入れた民事・刑事双方の法的措置へ、一切の躊躇なく移行することを、ここに明確に申し添えます。
突然このようなメールが届いたら、皆さんどう感じるでしょうか。「うわ、なんか厄介だなあ」「すぐに回答しないとまずいんじゃないか?」そんな焦りや不安を感じるのではないでしょうか。一方で、どこか違和感を覚える方もいると思います。
そうです。実はこのメールは生成AIのアシストによって作成されているのです。今回はAIの普及によって今後増えてくるであろう、AIアシストの「理論武装メール」(以下:AIアシストメールと略)に対し、会社としてどのように対応することが望ましいのか、一緒に考えていきたいと思います。
AIアシストメールには、大きく3つの特徴がみられます。
まず多いのが、「主治医診断書のみで早急に復職を認めるべきだ」「自分の主張が認められない場合、それは会社に非がある」といった結論ありきで文章が作られていることです。例えば今回の例では
上記が該当するでしょう。一見すると説得力があるように見えます。確かに主治医の診断書は、復職の可否を判断する重要な判断材料です。しかし重要なのはあくまでも判断材料の一つにすぎないということです。厚労省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」によると、主治医診断書の復職可能とは日常生活レベルの回復を示すことが多く、必ずしも業務遂行能力の回復を意味するものではないとされています。AIアシストメールではこの前提が抜けた状態で主張を展開することが多く、会社としては「主治医が復職可能の診断書を出した=即時復職させないといけない」という思考に誘導されやすくなります。
次に、複数の論点を同じ重要度で並べて提示してくる点も特徴的です。
復職の話から始まったはずなのに、長時間労働、就業規則の共有方法など、複数の論点が同じ重要度で列挙されています。このため「何から対応すればいいのか」「同時に全部答えないといけないのか」会社側としては混乱することになります。
最後に、回答期限や外部機関への相談を示唆することで、会社に判断を急がせるのも特徴的です。
『回答期限及び今後の措置 上記確認事項に対する貴社の最終的な見解と具体的な対応について、3営業日以内である〇年〇月〇日〇時までに、書面にてご回答ください。 期限内に誠意ある回答及び履行がなされない場合、「労災隠し」にも繋がりかねない悪質な行為と判断します。本書面を基に、弁護士への正式依頼、労働基準監督署、労働局への正式な申告、並びに、詐欺罪・有印私文書偽造罪等を視野に入れた民事・刑事双方の法的措置へ、一切の躊躇なく移行することを、ここに明確に申し添えます。』
このように一方的に期限を決め、外部の相談窓口(特に弁護士や労働基準監督署などが多いです)に相談すると告知することで、強いプレッシャーを会社に与えます。②の特徴と組み合わさることで、会社側としては「こちらに大きな非がある」「急いで対応しなければ」と相手のペースに乗せられて場当たり的な返答をしてしまう状況に陥りやすくなります。
さて、ここまでAIアシストメールの特徴について触れてきましたが、一方でAIアシストメールにも2つの弱点があります。
1つ目は内容が必ずしも正確とは限らない(ハルシネーションが起きる) こと、2つ目は主張と事実のずれが多いこと、です。
今回のメールで言えば、会社としての回答が遅れることと労災隠しとは全く関係ないですし、「詐欺罪・有印私文書偽造罪等」との関連については何を根拠に述べているのか?はっきりしません。他のケースでは、そもそも引用した法令そのものが存在しなかったというパターンもありました。
ですから、まずメールを受け取ったら「なんか変だぞ」と疑う気持ちを持つことが重要です。そして、すぐに結論を出さないことです。
具体的には会社として、
を整理することが初動対応のポイントになります。特に今回のケースでは、まず「復職手続き」に論点を絞ることが重要になるでしょう。
では実際にどのように対応すればよいのでしょうか。例えば岸本だったら、次のように返信するかもしれません。
具体的な手続きおよび確認方法については、社内で整理の上、〇月〇日までにご連絡いたします。
このメールではまず復職手続を優先課題として示しています。同時に主治医意見書の内容そのものは否定していないこと、復職可否の判断プロセスは会社側が決めること、回答期限も会社側が設定することの3点を意識して記載しています。
このようなメールを送ろうとすると、よく「相手の期日までに全部回答しなくていいんですか?」という不安の声を聴きますが、相手が設定した期限に会社が従う義務はありません。そもそも復職の可否はメールや主治医診断書だけで決まるものではないためです。特に主治医診断書だけで判断が難しい場合は、生活記録表を用いたモニタリング、試し勤務などを駆使し、客観的に復職可能な状態なのか確認することが望ましいと思います。健康状態について十分な確認を行わないまま復職を認めた結果、病状が悪化した場合には、会社側の責任(安全配慮義務違反)が問われる可能性があるためです。したがって、復職判断に必要な確認期間をどのように設定するかは、会社側で決めることが重要です(もちろん不当に延ばすことはできませんが)。
さて初動メールを送った後、設定した期日までに、会社はどんな情報を優先的に整理しておけばよいのでしょうか。次回はその方法について一緒に考えていきたいと思います。
休職中の従業員が職場復帰をするにあたり、事業者にはさまざまな対応が求められます。 本資料は産業医監修のもと、厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の内容に基づいて作成した以下の資料をセットにしたものです。 流れがわかる!従業員の職場復帰支援ガイド 復職及び就業上の配慮に関する情報提供書 復職支援に関する情報提供依頼書 産業医面談記録表 両立支援プラン/職場復帰支援プランの作成フォーマット 生活記録表 「従業員の職場復帰の流れについて把握したい」 「従業員の職場復帰時に必要な資料がほしい」 とお考えでしたら、ぜひご活用ください。
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